2024/01/30 14:57

自然銀に発するシルバーは私の好む素材のひとつです。その光沢は極めて鈍めで明瞭とは言い難く、ピカピカに磨いたところですぐにまた鈍よりと曇りを見せる天邪鬼気質。割と繊細で傷つきやすく、それでいてなんか温もりが感じられて、どうもヒトっぽいんですよね。気を使って丁寧に手を掛けてあげればそれなりにキレイを保ってくれるところなんかはまさにヒト。単純明快で素直、扱いやすいという可愛げもあって親近感はもとより、素朴さと美しさと色味のどれもこれも全部ひっくるめてシンプルに好みだし、長く連れていると表情がくるくる代わって相棒感が増してくるというヒトっぽさも魅力。

でも実はシルバーには素材の本質の部分でもっとヒトに似ているところがあって、ジュエリーにはある程度の硬度が要求されるわけですが、シルバーの持つ硬さ(モース硬度2.5くらい)はヒトの爪の硬さとほぼ同等であるということをご存じでしたか?

私たちの爪はちょっとした衝撃ですぐに割れたり捲れたりしてしまいますよね。シルバーはそれと同等の硬さしかないというのだから、道理で傷付き易いわけなのです。

もっとも、ジュエリー仕様のシルバーは合金にして強度を上げて用いるのが一般的で実際にはもう少し強度があって、純度92.5%(925)というのはその合金の具合を意味する表記なんだけれども、「気を付けていたのにあっという間に傷だらけ」なんていう展開はシルバーだからこそで、自分の癖がそのまま形になって定着してしまったなんてことも良くある話。

 シルバーの魅力を体質で見るならば、柔らかさゆえに複雑な造形や加工を許す包容力。気質で言うならば、硫化による変色に揺れる安定しない自由気質そのもの。自由で包容力があるなんて最高の誉め言葉ではありませんか?

だからこそね。使う側、身に着ける側の私たちもピカピカの美しさに囚われることなく、時間の経過を楽しむつもりでシルバーと付き合っていきたいものなのです。私たち同様に傷付いて変化していくエイジングに愛情を。なぜなら人生最高の相棒になり得る素材なのだから。